【パイロット】課題研究:昇段を目指せ!(2017年6月の課題)
パイロット6月の課題研究行書編です。
・・・とその前に・・・
お蔭さまで、当ブログが本日をもって5年目に突入しました\(^o^)/
こんなに長く続けられているのも、こんな書きなぐりのブログを閲覧いただいてる皆さんのお蔭ですm(__)m自分の勉強の記録としてのブログですが、当然、皆さんから拍手をいただいたり、コメントをいただいたり、Twitterで反響いただいたりがあってこそ、書き続けることができています。
根が面倒くさがりなもので、5年目を記念してリニューアル!とか内容を刷新!とかは今のところ予定しておりませんし、これまで通りの打ち間違え変換ミス多発の書きなぐりブログのままだと思いますが(^▽^;)どうか寛容な目で見ていただいて、これからもよろしくお願いいたします。
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さて、こちらの課題研究「行書編」は、「昇段を目指せ!」というタイトルで、行書で書く中・上級の方のための課題研究となっております。主に、A・B・C系統の行書の比較をして(D系統については三体字典が市販されていないこともあって割愛していますm(__)m)、①どんな書き方があるか、②共通のポイントはどこか、③系統のクセやミスをチェック、を確認することにしています。また、昇段するためにはどんなことに気を付ければいいのか、中上級の勉強、その他気づいたことを私見も交えて記事にしています。ご参考になれば幸いです。
今月のお題、「夏至の夕べに、蛍狩りの会が 開催されました。」の行書漢字比較です。

(B:B系統「ペン習字三体」、A:A系統「常用漢字の楷行草」、C:C系統「改訂常用漢字の三体」より)
「夏」は、B2の形では崩しすぎだと思います。普通にB1の形かA2やC1のように右払いを止める形で書きます。
「至」も、B2やCでは崩しすぎな気がします。C系統はC1の形で書いても構わないとは思いますが、前後の書きぶりも見て、通常の楷書を崩したB1やA1の形で書いた方がいいかもしれません。
「蛍」の「つかんむり」は新字体の書き方で、A2のような形は旧字体となります。三体字典の行書には時折旧字体を崩したものも掲載されますが、パイロットの級位認定課題では旧字体を崩した形は規定外となる可能性が大なので書かない方がいいと思います。これについては、下で議論します。
「狩」の字も、B2やC2は崩しすぎだと思います。B系統の三体字典を見ていると、狩田先生の三体字典を参照したのでは?と思うことがよくありますね。
「会」は、「ひとやね」部分の右払いが払う形(正確には楷書のように払うのではなく止めますが)で書くか、止める形で書くか。B2やA2のような形に書くのは草書寄りの書き方で、ダメだとは思いませんが、やはり前後の字の書きぶりによっては浮いてしまうので、パイロットの級位課題では使わない方が無難だと思います。
「開」は、「もんがまえ」の書き方ですが、B1の形とB2の形とどちらもOKです。書き慣れていない場合は、素直にB1のような形で書く方がいいかと思います。B2の形で書く場合は、十分に練習して、形をマスターしてから使いましょう。
「催」についても、B2やC2の形まで崩すと崩しすぎだと思います。
【連綿】
今回の連綿ポイントは、「されました」の部分でしょうか。「べに」「りの」の部分で連綿にできればこなれた感じは出るかと思いますが、無理して連綿にする必要もありません。硬筆書写技能検定でも、「連綿が書けますよ」ということで1か所か2か所を連綿にしておけば十分で、あまり連綿にしすぎるとかえって「クドイ」ということでマイナス評価となります。
「され」「まし」「した」「ました」のバターンのうち、1か所もしくは2か所の連綿にしたいと思います。
【旧字体・書写体と誤字・規定外】
前回の課題研究で、旧字体、書写体について少し触れましたが、もう少し書体・字体について考察しておきます。
パイロットの級位認定の審査では、三体字典に載っている字を書いたのに誤字や規定外になったというケースがあります。級位認定課題は、楷書もしくは行書で書くようにと指定されており、三体字典や六体字典はそれ以外の字も含まれているから、こういうことが起こります。
書体と字体
もう一度、楷書と行書について、整理しておきます。楷書や行書、草書は、「書体」といいます。
書体には、次の2つがあります。
・活字のために作った形・・・明朝体、宋朝体、ゴシック体、正楷体、楷書体、教科書体など
・手書き文字の形・・・楷書、行書、草書、隷書、篆書など
(江守賢治著,「硬筆毛筆書写検定 理論問題のすべて」)
字は、時代によって、また筆記具によって、より読みやすさが追求されたり、書きやすさが追求されたりして、草書や行書、楷書などの書体が生まれてきました。その過程は今月号のわかくさ通信の1面にも詳しく紹介されていますので、テキストや参考書とともに読んでみてください。
要点は、こうです。
原産国中国では、漢字は隷書→草書→(行書-楷書)の順で発展してきた。
日本では、飛鳥時代ごろにそれらがいっきに輸入され、経典とともに楷書が先に流布し、その他の書体とともに独自の書きぶりが作られていった。その過程でひらがな・カタカナも生まれた。
また、印刷技術の登場・発展によって印刷に適した書体も作られました。これが活字書体ですが、これらはすべて「意図して形を作って統一した」書体です。
これらの「字のデザインの仕方の種類」を「書体」と呼びます。
さて、手書きの字は、自然発生的に生まれて、自然に広まっていったので、言葉と同じように「方言」のようなものが生まれてしまいます。同じ楷書でも、骨組み(画)が異なるバリエーションができてしまいます。また、時の権力者や権威によって書き方が変えられ、統一されてしまう場合もあります。
たとえば、異なる書体でも・・・
(江守著,「理論問題のすべて」より)
この2つは、字の骨組み(画)が一緒ですが、

(江守著,「理論問題のすべて」より)
この2つは、どちらも楷書の同じ字を表してますが、骨組み自体が違います。こうした、骨組み(画)の異なる形の種類を「字体」と呼びます。
書写体・異字体
現代使われている楷書と行書について、「今はこう書いてるけど、そもそもの漢字は実はこう書いていた」というものがあります。「そもそもの漢字」というのは、原産国中国で漢字の形が概ね完成されたと思われる唐の時代とかに書かれていた「九成宮醴泉銘」などの古典に書かれていた字のことです(日本で書かれた古典でも、ずっと昔からこう書いてきたという字も含まれます)。あるいは、「そもそもの漢字」も何種類かあった、などということもあります。
それらの字は、漢字の原典なわけですから、「間違ってる」とは言えません。だって本家本元なんだもの。そういった、本来正しい字として使われてきたけど、今では使っていない字を「書写体・異字体」と呼びます。日常で使っていないだけで、漢字辞典にはちゃんと載っていますし、書道などでも書かれています。
旧字体と新字体
それとは別に、戦後、公文書や教育向けに国が定めた「漢字の書き方」があります。戦後すぐに制定された「当用漢字」とその字体表、そしてその後制定された「常用漢字」とその字体表です。これらは、戦前・戦中まで使ってきた漢字が多すぎる上に画数が多くて難しすぎる!ということで、日常使う漢字の数を限定して、書き方も簡略化(「字体」を簡略化)した字です。
この新しく定めた「字体」を「新字体」とよび、それに対してそれまで使っていた画数の多い字を「旧字体」と呼びます。つまり「旧字体」は、常用漢字で定められている「新字体」(もしくはその部分)にい対してしか存在しません。
楷書と行書と旧字体と書写・異字体
さて、上の常用漢字の「字体表」は、楷書を前提に示されたもので、行書については対象外となっています。また、楷書でも手書きの楷書では止めたり跳ねたりすぼめたりといった書き方のバリエーションがあるから、あくまでも参考ですよ!ということになっています。骨組みである「字体」は変えてはいけないけど、書体には活字の書体や手書きの書体があるから、その違いは大目に見ますということです。
硬筆書写技能検定、あるいはそれに準拠したペン習字(パイロットもそうだし、他おおくの競書誌もそう)では、文科省が後押ししてますから、この常用漢字と字体表を無視するわけにはいきません。
だから、「楷書については、常用漢字の字体表で示された字体で書くこと」というのが大原則です。これに背くと、誤字・規定外と看做されます。ですから、「新字体で書くこと」となっているのは、つまり「常用漢字の書き方で書け」ということです。
それに対して、常用漢字の字体表には、行書については何一つ触れられていません。公文書や教育のための漢字表ですから、公文書や教育で扱わない行書はまったくの対象外なわけです。つまり、行書については、基本、どう書こうが自由ということになります。
また、行書には次のような事情があります。
・文章で書くときに、同じ字が出てくると変化をつけて美しさを表現したい
・行書は崩した書き方なので、崩し方によっていろんな書きぶりが存在する
・昔から書いてきた崩し方をカッチリ決めてしまうと、それはもう「行書」として意味なくなっちゃう
こうした事情から、行書については書き方の幅を認めて、たとえ常用漢字の字体表にはない字体でも可としています。だから、鳥などのように昔ながらの書写体で書くのが普通とされてきた字は、書写体の書き方でいいことになっています。

ただし!やっぱり文部省(現文科省)で決めた「新字体」についてはできるだけ逆らわないということで、書写技能検定や準拠しているパイロット他の競書誌では、「旧字体」については使わないのが慣例となっているんだと思います。実際に、これまで見聞きしたものもすべて、上のような鳥は書いてもいいけれど、三体字典に載っているからといって旧字体を崩した字で書いたものは規定外となっています。
ですから、「新字体で書いてください」と書かれている意味は、
1.楷書はすべからく常用漢字で定められた新字体の書き方で書くこと
2.楷書で常用漢字にない漢字については、もっとも一般的な字体で書くこと
3.行書については「新字体」「旧字体」の区別のあるものは「新字体」に則って書くこと
4.行書でそれ以外については、従来から用いられてきた書き方(書写・異字体も含む)で書いて良し(ただし、草書との区別はすること)
・・・ということになります。
なお、三体字典、六体字典、書道字典などは、「この字を使いなさい」というルールブックなどではなく、楷書・草書・行書、隷書、篆書、その他のいろんな書体を示した見本帳でしかないので、書写体・異字体、旧字体、草書、それ以外すべて載っています。その中から、「自分で字を選びなさい」ということですから、選びそこなったのは自分の責任、ということになります。
最後にこの原則に従って、過去の「鶏事件」を見ます。
「鶏」は、本来この形(書写体・異字体)
常用漢字(当用漢字)で定めた新字体

この形は、簡略化して(ノツ天ではなく)「ノツ夫」の形と定めたもの。この段階で、楷書は、この形で書かなければならないことが確定。
行書についても、「新字体」「旧字体」のルールに則って楷行(※)で書く場合は「ノツ夫」にする。

これは、「幺」を崩した形であって、新字体の「ノツ夫」ではない(なぜなら、新字体が作られるずっと昔から使われてきたもので、字体も違うから)。通常の行書ではこれも可。ただし、この形を級位認定課題で書いた場合はどうなるのか?は不明だが、新字体で「幺大」から「夫」へ大きく変わったところなので、「新字体で」という立場とあえてこの形で書く(同一漢字の変化をつけたいなどの)意図がないなら、できれば使わない方がいい考える。
ということで、昔の新字体にまだ抵抗があった時代の先生の参考書などで「ノツ天」となっている形で書かれたものは、おそらくこの「幺」を崩した形と新字体の「ノツ夫」を混同されたであろう(そんなに大事なことになるとは思ってなかったであろう)誤謬だろうと推察するわけです。
今回は、長くなっちゃいましたm(__)mごめんなさい
※行書には、楷書に近い(楷書を崩した)楷行と草書に近い(草書から崩した)草行とがあり、その中間にもバリエーションがあります。
※江守賢治著「改定 常用漢字の楷行草」によると、「検定協会では、現代社会の実務の上で漢字を書くこと考えて新字体を決めたのであり、実務の上では行書も書くことが多い。したがって、実務の上では、当然、新字体の形で行書を書いてもよろしい。」という考えだそうです。つまり、行書は書き方が決まっていないので、これまで書いてきた行書を書くが、楷書に新字体ができたことによって、新字体に則った行書も加わったという流れですね。
(2017.6.11 若干の加筆・修正)
・・・とその前に・・・
お蔭さまで、当ブログが本日をもって5年目に突入しました\(^o^)/
こんなに長く続けられているのも、こんな書きなぐりのブログを閲覧いただいてる皆さんのお蔭ですm(__)m自分の勉強の記録としてのブログですが、当然、皆さんから拍手をいただいたり、コメントをいただいたり、Twitterで反響いただいたりがあってこそ、書き続けることができています。
根が面倒くさがりなもので、5年目を記念してリニューアル!とか内容を刷新!とかは今のところ予定しておりませんし、これまで通りの打ち間違え変換ミス多発の書きなぐりブログのままだと思いますが(^▽^;)どうか寛容な目で見ていただいて、これからもよろしくお願いいたします。
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さて、こちらの課題研究「行書編」は、「昇段を目指せ!」というタイトルで、行書で書く中・上級の方のための課題研究となっております。主に、A・B・C系統の行書の比較をして(D系統については三体字典が市販されていないこともあって割愛していますm(__)m)、①どんな書き方があるか、②共通のポイントはどこか、③系統のクセやミスをチェック、を確認することにしています。また、昇段するためにはどんなことに気を付ければいいのか、中上級の勉強、その他気づいたことを私見も交えて記事にしています。ご参考になれば幸いです。
今月のお題、「夏至の夕べに、蛍狩りの会が 開催されました。」の行書漢字比較です。



(B:B系統「ペン習字三体」、A:A系統「常用漢字の楷行草」、C:C系統「改訂常用漢字の三体」より)
「夏」は、B2の形では崩しすぎだと思います。普通にB1の形かA2やC1のように右払いを止める形で書きます。
「至」も、B2やCでは崩しすぎな気がします。C系統はC1の形で書いても構わないとは思いますが、前後の書きぶりも見て、通常の楷書を崩したB1やA1の形で書いた方がいいかもしれません。
「蛍」の「つかんむり」は新字体の書き方で、A2のような形は旧字体となります。三体字典の行書には時折旧字体を崩したものも掲載されますが、パイロットの級位認定課題では旧字体を崩した形は規定外となる可能性が大なので書かない方がいいと思います。これについては、下で議論します。
「狩」の字も、B2やC2は崩しすぎだと思います。B系統の三体字典を見ていると、狩田先生の三体字典を参照したのでは?と思うことがよくありますね。
「会」は、「ひとやね」部分の右払いが払う形(正確には楷書のように払うのではなく止めますが)で書くか、止める形で書くか。B2やA2のような形に書くのは草書寄りの書き方で、ダメだとは思いませんが、やはり前後の字の書きぶりによっては浮いてしまうので、パイロットの級位課題では使わない方が無難だと思います。
「開」は、「もんがまえ」の書き方ですが、B1の形とB2の形とどちらもOKです。書き慣れていない場合は、素直にB1のような形で書く方がいいかと思います。B2の形で書く場合は、十分に練習して、形をマスターしてから使いましょう。
「催」についても、B2やC2の形まで崩すと崩しすぎだと思います。
【連綿】
今回の連綿ポイントは、「されました」の部分でしょうか。「べに」「りの」の部分で連綿にできればこなれた感じは出るかと思いますが、無理して連綿にする必要もありません。硬筆書写技能検定でも、「連綿が書けますよ」ということで1か所か2か所を連綿にしておけば十分で、あまり連綿にしすぎるとかえって「クドイ」ということでマイナス評価となります。
「され」「まし」「した」「ました」のバターンのうち、1か所もしくは2か所の連綿にしたいと思います。
【旧字体・書写体と誤字・規定外】
前回の課題研究で、旧字体、書写体について少し触れましたが、もう少し書体・字体について考察しておきます。
パイロットの級位認定の審査では、三体字典に載っている字を書いたのに誤字や規定外になったというケースがあります。級位認定課題は、楷書もしくは行書で書くようにと指定されており、三体字典や六体字典はそれ以外の字も含まれているから、こういうことが起こります。
書体と字体
もう一度、楷書と行書について、整理しておきます。楷書や行書、草書は、「書体」といいます。
書体には、次の2つがあります。
・活字のために作った形・・・明朝体、宋朝体、ゴシック体、正楷体、楷書体、教科書体など
・手書き文字の形・・・楷書、行書、草書、隷書、篆書など
(江守賢治著,「硬筆毛筆書写検定 理論問題のすべて」)
字は、時代によって、また筆記具によって、より読みやすさが追求されたり、書きやすさが追求されたりして、草書や行書、楷書などの書体が生まれてきました。その過程は今月号のわかくさ通信の1面にも詳しく紹介されていますので、テキストや参考書とともに読んでみてください。
要点は、こうです。
原産国中国では、漢字は隷書→草書→(行書-楷書)の順で発展してきた。
日本では、飛鳥時代ごろにそれらがいっきに輸入され、経典とともに楷書が先に流布し、その他の書体とともに独自の書きぶりが作られていった。その過程でひらがな・カタカナも生まれた。
また、印刷技術の登場・発展によって印刷に適した書体も作られました。これが活字書体ですが、これらはすべて「意図して形を作って統一した」書体です。
これらの「字のデザインの仕方の種類」を「書体」と呼びます。
さて、手書きの字は、自然発生的に生まれて、自然に広まっていったので、言葉と同じように「方言」のようなものが生まれてしまいます。同じ楷書でも、骨組み(画)が異なるバリエーションができてしまいます。また、時の権力者や権威によって書き方が変えられ、統一されてしまう場合もあります。
たとえば、異なる書体でも・・・

(江守著,「理論問題のすべて」より)
この2つは、字の骨組み(画)が一緒ですが、

(江守著,「理論問題のすべて」より)
この2つは、どちらも楷書の同じ字を表してますが、骨組み自体が違います。こうした、骨組み(画)の異なる形の種類を「字体」と呼びます。
書写体・異字体
現代使われている楷書と行書について、「今はこう書いてるけど、そもそもの漢字は実はこう書いていた」というものがあります。「そもそもの漢字」というのは、原産国中国で漢字の形が概ね完成されたと思われる唐の時代とかに書かれていた「九成宮醴泉銘」などの古典に書かれていた字のことです(日本で書かれた古典でも、ずっと昔からこう書いてきたという字も含まれます)。あるいは、「そもそもの漢字」も何種類かあった、などということもあります。
それらの字は、漢字の原典なわけですから、「間違ってる」とは言えません。だって本家本元なんだもの。そういった、本来正しい字として使われてきたけど、今では使っていない字を「書写体・異字体」と呼びます。日常で使っていないだけで、漢字辞典にはちゃんと載っていますし、書道などでも書かれています。
旧字体と新字体
それとは別に、戦後、公文書や教育向けに国が定めた「漢字の書き方」があります。戦後すぐに制定された「当用漢字」とその字体表、そしてその後制定された「常用漢字」とその字体表です。これらは、戦前・戦中まで使ってきた漢字が多すぎる上に画数が多くて難しすぎる!ということで、日常使う漢字の数を限定して、書き方も簡略化(「字体」を簡略化)した字です。
この新しく定めた「字体」を「新字体」とよび、それに対してそれまで使っていた画数の多い字を「旧字体」と呼びます。つまり「旧字体」は、常用漢字で定められている「新字体」(もしくはその部分)にい対してしか存在しません。
楷書と行書と旧字体と書写・異字体
さて、上の常用漢字の「字体表」は、楷書を前提に示されたもので、行書については対象外となっています。また、楷書でも手書きの楷書では止めたり跳ねたりすぼめたりといった書き方のバリエーションがあるから、あくまでも参考ですよ!ということになっています。骨組みである「字体」は変えてはいけないけど、書体には活字の書体や手書きの書体があるから、その違いは大目に見ますということです。
硬筆書写技能検定、あるいはそれに準拠したペン習字(パイロットもそうだし、他おおくの競書誌もそう)では、文科省が後押ししてますから、この常用漢字と字体表を無視するわけにはいきません。
だから、「楷書については、常用漢字の字体表で示された字体で書くこと」というのが大原則です。これに背くと、誤字・規定外と看做されます。ですから、「新字体で書くこと」となっているのは、つまり「常用漢字の書き方で書け」ということです。
それに対して、常用漢字の字体表には、行書については何一つ触れられていません。公文書や教育のための漢字表ですから、公文書や教育で扱わない行書はまったくの対象外なわけです。つまり、行書については、基本、どう書こうが自由ということになります。
また、行書には次のような事情があります。
・文章で書くときに、同じ字が出てくると変化をつけて美しさを表現したい
・行書は崩した書き方なので、崩し方によっていろんな書きぶりが存在する
・昔から書いてきた崩し方をカッチリ決めてしまうと、それはもう「行書」として意味なくなっちゃう
こうした事情から、行書については書き方の幅を認めて、たとえ常用漢字の字体表にはない字体でも可としています。だから、鳥などのように昔ながらの書写体で書くのが普通とされてきた字は、書写体の書き方でいいことになっています。

ただし!やっぱり文部省(現文科省)で決めた「新字体」についてはできるだけ逆らわないということで、書写技能検定や準拠しているパイロット他の競書誌では、「旧字体」については使わないのが慣例となっているんだと思います。実際に、これまで見聞きしたものもすべて、上のような鳥は書いてもいいけれど、三体字典に載っているからといって旧字体を崩した字で書いたものは規定外となっています。
ですから、「新字体で書いてください」と書かれている意味は、
1.楷書はすべからく常用漢字で定められた新字体の書き方で書くこと
2.楷書で常用漢字にない漢字については、もっとも一般的な字体で書くこと
3.行書については「新字体」「旧字体」の区別のあるものは「新字体」に則って書くこと
4.行書でそれ以外については、従来から用いられてきた書き方(書写・異字体も含む)で書いて良し(ただし、草書との区別はすること)
・・・ということになります。
なお、三体字典、六体字典、書道字典などは、「この字を使いなさい」というルールブックなどではなく、楷書・草書・行書、隷書、篆書、その他のいろんな書体を示した見本帳でしかないので、書写体・異字体、旧字体、草書、それ以外すべて載っています。その中から、「自分で字を選びなさい」ということですから、選びそこなったのは自分の責任、ということになります。
最後にこの原則に従って、過去の「鶏事件」を見ます。
「鶏」は、本来この形(書写体・異字体)

常用漢字(当用漢字)で定めた新字体

この形は、簡略化して(ノツ天ではなく)「ノツ夫」の形と定めたもの。この段階で、楷書は、この形で書かなければならないことが確定。

行書についても、「新字体」「旧字体」のルールに則って楷行(※)で書く場合は「ノツ夫」にする。

これは、「幺」を崩した形であって、新字体の「ノツ夫」ではない(なぜなら、新字体が作られるずっと昔から使われてきたもので、字体も違うから)。通常の行書ではこれも可。ただし、この形を級位認定課題で書いた場合はどうなるのか?は不明だが、新字体で「幺大」から「夫」へ大きく変わったところなので、「新字体で」という立場とあえてこの形で書く(同一漢字の変化をつけたいなどの)意図がないなら、できれば使わない方がいい考える。
ということで、昔の新字体にまだ抵抗があった時代の先生の参考書などで「ノツ天」となっている形で書かれたものは、おそらくこの「幺」を崩した形と新字体の「ノツ夫」を混同されたであろう(そんなに大事なことになるとは思ってなかったであろう)誤謬だろうと推察するわけです。
今回は、長くなっちゃいましたm(__)mごめんなさい
※行書には、楷書に近い(楷書を崩した)楷行と草書に近い(草書から崩した)草行とがあり、その中間にもバリエーションがあります。
※江守賢治著「改定 常用漢字の楷行草」によると、「検定協会では、現代社会の実務の上で漢字を書くこと考えて新字体を決めたのであり、実務の上では行書も書くことが多い。したがって、実務の上では、当然、新字体の形で行書を書いてもよろしい。」という考えだそうです。つまり、行書は書き方が決まっていないので、これまで書いてきた行書を書くが、楷書に新字体ができたことによって、新字体に則った行書も加わったという流れですね。
(2017.6.11 若干の加筆・修正)
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